冬の海にて 12:47
友人と海に行く機会があった。
季節は既に冬、朝早い時刻だったこともあり周辺にいるのはサーファーらしい若い男性や何をしに来ているのかよくわからないおじいさん、犬の散歩をする夫婦くらい。
風はほぼなく波も穏やかで、真夏の賑わいのなかの海とは打って変わって静かだ。
友人と私の話す声と波の音しかしない。
時おり鳥の鳴き声が響く。
海の青と空の青、コットンをちぎったような薄くて白い雲に見とれた。
海岸を歩いたりぼんやりしたり、しばらくまったり過ごした。
浜辺にはいろんな色や形をした貝殻の破片や石が落ちている。
薄いグレーでざらざらした6cmほどの石が目についた。
もっときれいな石がたくさん落ちているのにその石が気になった理由は、形が歯みたいに見えたから。
実際の歯よりはだいぶ大きいが縦長のゆるい台形をしていて、波で角は丸くなり底辺だけ少しぼこぼことしているのが人間の奥歯そっくりだと思った。
拾って眺めながら10月末に親知らずを抜いたことを思い出した。
抜いたあと、歯を持ち帰りますかと聞かれたがとっさに断ってしまっていた。
石についた砂をこすって落とし、友人に隠れるようにポケットに入れた。
歯を一本なくした代わりに歯みたいな石を拾うなどということをしているのがばれるのがなんとなく恥ずかしかった。
何かを拾うというのは久しぶりな気がする。
小さい頃は道端の石、色鮮やかな葉っぱや花びら、どんぐりや松ぼっくり、蝉の抜け殻、落し物の汚れた指輪、いろんなものを拾って集めていた。
特に鳥の羽を拾うのが好きだった。
カラスやハトもものらしい黒、灰色をしたものはよく見かける。
まれにほとんど白いものや、黄土色が混じったものはレアだ。
親からは汚いからあまり触るなと注意されたものだ。
大人になるにつれ大抵の落ちているものは無視するようになり、身長も伸びて昔ほど地面に目がいかなくなったなと思う。
家まで持って帰ってきたその石は本棚に飾ってある。
壁面に立てかけなくてもしっかり自立している。
拾うとき恥ずかしさを感じた私とは反対に堂々とした佇まいだ。